今日は久しぶりにセミナーに参加してきました。
公益財団法人新潟市産業振興財団(通称「新潟IPC財団」※)が主催する“ワンコインセミナー”で、様々な分野の専門家のお話が500円で聞けるお得なセミナーです。
ちなみに新潟IPC財団の「IPC」は「INDUSTRIAL PROMOTION CENTER(Google翻訳によると産業振興センターの意)」の頭文字をとったものです。
こういった英語の略称を見ると「正式名称は何かな?」と調べずにはいられない性分です。
さて、今回のテーマは「中小企業が取り組むべきマーケティング施策30選」。
聞いたことのあるものから初耳のものまで様々でした。
マーケティングとは
マーケティング施策の前提、マーケティングとは何なのか?
講師の遠藤さんが所属するグローカルマーケティングさんではこう定義しています。
マーケティングとは、売れる仕組みづくり
仕組みを作るにあたって必要なのは、これらを考えることです。
- 何を売るのか(商品)
- どのように売るのか(アプローチ)
- 誰に売るのか(ターゲット)
考えるときは上記の3つを下から、つまり、
- 誰に売るのか(ターゲット)
- どのように売るのか(アプローチ)
- 何を売るのか(商品)
の順で考えていくそう。
2.と3.は逆でも良いと思いますが。
ターゲットの決め方について、星野リゾート・星野社長の言葉が紹介されました。
「自分の価値観に合ったお客を探して、その人たちの要望に120%応えていく」
この言葉はテレビ東京『カンブリア宮殿』(2010年2月1日放送)の中からのようです。
また、放送では「自分の~」の前に「(お客)全員から『非常に満足』を取ろうという方法は、すごく効率が悪いし不可能。」という言葉もあったようです。
つまり、
(お客)全員から「非常に満足」を取ろうという方法は、すごく効率が悪いし不可能。自分の価値観に合ったお客様を探して、その方々の要望に120%応えていく。
ということですね。
当該放送回を見たくてテレビ東京のビジネスオンデマンドに登録しようと思ったものの、2012年の回までしかアップロードされていなかったので断念。
「ターゲットを決めるにあたっては下記のことを考えてみてください」と遠藤さん。
- 理想のお客様はどのような人ですか?
- 理想のお客様はどのような悩みや欲求を抱えていますか?
- 取引をするにあたって、理想のお客様が抱えるリスクや、障害になることはありますか?
事例として、山形県にある温泉宿「すみれ」さんを挙げられました。
すみれさんは「おふたり様専用」のお宿。
3人以上では宿泊できず、友人・恋人・夫婦・親子と、とにかく2人でしか泊まれません。
すみれさんも、自分たちにとって理想のお客様は誰なのかを考えた結果、こうした形態になったそうです。
マーケティング30選はどんなものがある?
教えていただいたものをザッと並べます。
- プレスリリース
- 自己開示
- STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
- グループインタビュー(座談会)
- ペルソナファミリーモデル
- 商品購入までのストーリー
- USP構築
- 売り・強みを発見する質問
- テレビCM
- ホームページ
- 無料サンプル
- 追加サンプル
- リマーケティング
- 改善開示
- 購入前アンケート
- クロスセル
- アップセル
- セット販売
- アンカリング効果
- 松竹梅戦略
- キャッシュレス決済
- はじめてセット
- 頒布会
- サブスクリプション
- おまけ付
- リスクリバーサル
- コーズマーケティング
- DM(ダイレクトメール)
- サンキューレター
- 季節限定品
セミナー時間が2時間と限られていたので30個全てについて詳しく、とはいきませんでしたが、最近の動向や講師の遠藤さんがご自身の日常生活の中で体験した事例などを交えて説明してくださいました。
全てに触れると長くなりすぎるので、知らなかったもの、新たな気づきがあったものを挙げます。
プレスリリース
テレビ局や新聞社に対して「取材してほしい」ということを伝える手法です。
ただし、何でもかんでも伝えればいいのではありません。
商品・サービスをただ売り込みたいだけだと「それは広告でやってください」という話で、取り上げられるために必要なのは、社会にとっての有益性。
- 「社会の中の○○な人たちに役立ちます」
- 「社会の○○な問題を解決します」
という情報がないと、取り上げられるのはまず難しいそうです。
例として挙がったのがこちら。
▼見た目は黒ビール! 話題の「ドラフトコーヒー」が新潟北区「トラットリア ノラ・クチーナ」で飲める!(「にいがた、びより」2016年12月28日)
※掲載元サイトでの掲載期間が終了してしまったようです。
シャンパングラスで飲むドラフトコーヒー(見た目がビールのようなコーヒー)ですが、ただ飲みに来てください!という宣伝だけではなく、
ノラ・クチーナは「お酒を飲まなくても飲み会の場の雰囲気を保てるのでは」と話している。
のように「お酒が苦手だけど場の雰囲気を壊さないように無理して飲んでいる人」の役に立てますという情報も入っています。
プレスリリースを書く際のコツ「“5W5H”を原稿に落とし込む」
5W
- What(何を)
- Who(誰が)
- Why(なぜ)
↑重要!「なぜそれをやるのか、始めたのか」というストーリーを語る - When(いつ)
- Where(どこで)
5H
- How(どのように)
- How many(どのくらいの数量)
- How much(金額)
- How long(期間)
- How in the future(将来性)
↑重要!「この商品・サービスで将来○○を実現したい、○○になる」という想い
5W5Hは「記事を書くにあたってはこれらを抑える必要があるよ」と、朝日新聞が新人記者に初めに教え込むポイントだそう。
つまりそれを先に書いておいて、記者の方に分かりやすくするということですね。
プレスリリース一枚で売上が2倍になった企業が新潟県燕市にあるそうです。
ペルソナファミリーモデル
売りたい商材によっては、1人のペルソナではなく、ファミリーモデル(一家全員分のペルソナ)を設定することも必要。
夫婦をターゲットにした場合、どうやって知ってもらうか等を考える際は妻もしくは夫、どちらかだけに意識が向きがち。
しかし、最終決定権があるどちらかだけで本当に決めてしまう場合だけでなく、夫婦で十分に話し合ってから買うこともあります。
つまり、妻だけ、夫だけのペルソナではなく、どういう家族構成なのか、休日はどう行動するかにまで思いを巡らせ、夫婦に対してアプローチの施策を考える必要がある。
商品購入までのストーリー
ペルソナがどんな風に自社商品・サービスに出会って、購入までいくかのストーリーを作る。
これを作ることで、施策に矛盾がないかどうかをチェックできる。
折込チラシを作ろうとしても、「このペルソナの生活だと、ここで折込チラシは見ないよね」など。
USP構築
- U=Unique(独自の)
- S=Selling(販売の)
- P=Proposition(提案、主張)
つまり、自社・商品の売り・強み。
突然「隣の席の人同士で、自社のUSPを1分間で伝えてみてください」との課題が。
短い時間でも端的に分かりやすく伝えられるように。
これを考えるのはUSPを明確にするトレーニングになりますね。
売り・強みを発見する質問
自社USPのヒントは自社のお客様が持っています。
自分達で分からなければお客様に聞いてしまいましょう。
「どうして、数ある(商品・サービス・お店)の中で、私たちの会社(またはお店・サービス)を選んでくださったんですか?」
返ってきた答えが自社の売り・強みです。
戦略キャンバス
30選にはありませんが、自社の売り・強みを発見する方法の+αとして教えていただきました。
遠藤さんが訪れた焼肉店を例に説明。
- コスパ
- 店舗の入りやすさ
- 肉の質
- メニューの豊富さ
- 提供スピード
- 居心地
- 接客
など、競合するポイント(顧客が価値を感じるポイント)において他社との優劣を比較して、差別化を計れそうかどうかをチェックするフレームワークで、店舗の新規出店の際にも活用できるとのこと。
下記の記事も分かりやすかったです。
無料サンプル、追加サンプル、リマーケティング
遠藤さんがドモホルンリンクルの無料お試しセットで感じたという、再春館製薬のマーケティングの凄さ。
- 無料サンプルが届いた数日後に「もう少し使ってみませんか?」と追加サンプルが届いた
無料分を使い終わって関係性が切れてしまわないよう、無くなる前に追加のアクション。 - 複数回のダイレクトメール
「今なら○○(特典の内容)です」
「○○できるのはもうすぐ終わります」
「締切直前」
というように、何回かダイレクトメールが来た。 - インターネットを見ているときにドモホルンリンクルの広告が表示された
これはリマーケティングと言って、ユーザーが閲覧したサイト情報を基に、その後訪れた別のサイトでも過去に閲覧した情報に関連した広告を出すという「追従型広告」のことです。
しつこいくらいに、あの手この手でお客様に忘れられないようにしているのです。
人は忘れるもの。
それは誰もが名前を知っている商品・大企業でも同じ。
有名商品・企業でも努力をしているならば、それより知名度が劣る中小企業は一層忘れられない工夫が必要だなと思いました。
無料サンプル・ダイレクトメール・リマーケティングに限らずとも、SNSでの発信やブログ等でもいいと思いますし。
改善開示
商品開発手法やマーケティング手法などで、改善したことがあった場合、その事実をお客様に正確にお伝えすること。
グローカルマーケティングさんの事業の一つ、子育て世帯向け会員サービス「トキっ子くらぶ」での事例。
トキっ子くらぶ会員向けにお得なサービスを提供してくれる店舗・企業を募集するのが営業さんのお仕事なのですが、
トキっ子くらぶは解約するときにしつこいと聞いたんだよね
と言われて交渉が難航することもあったそう。
サービスをより良くするために色々聞いていたのが、店舗側からするとしつこいという評価だったわけです。
そう言った声があったことを社内で検討して、解約時に色々聞くのはやめようと決定。
にもかかわらず、依然として「トキっ子くらぶは解約時しつこい」という評価が減らない。
これは
「解約時にしつこい引き止めはしません」と改善したことをお客様に伝えていなかったから
でした。
自分たちが「今度からは○○にしよう」と決めたところで、決めただけではお客様には伝わりません。
それをしっかりと開示しましょうねということです。
前述の再春館製薬でも改善開示の例があります。
おはずかしい過去
私たちにはおはずかしい過去があります。目先の売上にとらわれるあまり、「お客様満足」という言葉が口先だけのものになっていた。そんな失敗があります。お客様に十分にご納得いただけないままおすすめをしたり一方的なお電話を差し上げたことで、「しつこい」「こんな勧誘やめて」などたくさんのお叱りの声をいただきました。そして1993年、お客様からの返品の山に、初めて自分たちがおかした過ちの大きさに気づきました。
そこで私たちは三ヶ月間一切のお電話をやめ、お声の一つひとつに目を通し向き合いました。そして社長を先頭にお客様とのおつきあいのあり方をいちから見直しました。社員教育の徹底、お客様満足室の設置などの改革を行ったのです。以来、少しずつではありますが、永くお付き合いくださる会員様から変化を感じていただけるお声もいただいています。
出典:私たちにとって「お声」とは
※現在はページが削除されています。
※最終閲覧日:2019年8月29日
隠したくなるようなことでも、改善したならば伝えましょう。
そうすることで信用を得られることもあります。
隠したくなることを隠すよりも正直に言ってくれて、さらにそれを改善したと聞いたら私は「ここは信用できるな」と感じます。
クロスセル・アップセル・セット販売
いずれも売上を上げる方法で、ハンバーガー店をイメージすると分かりやすいです。
- クロスセル(クロスセリング/Cross-selling)
「ご一緒にポテトはいかがですか?」です。
購入したものと別の商材を提供して品目数を上げます。 - アップセル(アップセリング/Up-selling)
「+○○円でポテトMがLに変えられますよ」です。
上級商材を提供して客単価を上げます。 - セット販売
関連商品を予め抱き合わせてセットにし、値引き等でお得にして収益を上げる方法です。
松竹梅戦略
商品・サービスの価格を決めるときは「松・竹・梅」と「高い・中くらい・低い」の3つを設定しましょうという話。
もし2つしかプランがないのであれば、選ばれなくていいから、より高く見える「松」を設定する。
選択肢が3つある場合は竹(真ん中)が一番選ばれやすいので、ここを「買って欲しい価格」にします。
「一番高いのは避けたいけど、かといって一番低い値段のを選んで満足できないのも嫌だし…」という心理が働いて真ん中が選ばれやすいそう。
言い方悪いですが、松・梅は囮のようなものでしょうか。
受講者を6人ずつA・Bの2グループに分けてちょっとした実験をしました。
まずBグループには目をつむってもらい、Aグループに対して「2,980円のうな重と1,580円のうな重だったらどちらを選びますか?」とホワイトボードに書いて質問。
結果は2,980円が3人、1,580円も3人と半々に分かれました。
次に、3,980円のうな重を選択肢に加えた上で「どれを選びますか?」とBグループに同じく質問。
結果は3,980円が1人、2,980円が5人、1,580円はゼロ。
真ん中の価格帯、竹が最も多くなりました。
簡単な実験でしたが、ほほぉと納得。
キャッシュレス決済
クレジットカードや電子マネー、最近だとQRコード決済など、現金以外の方法で代金を支払うことです。
現金を入れておく、降ろしに面倒ですもんね。
使い過ぎに気を付けていれば、ポイントが貯まったりスムーズに支払できたりと現金払いにないお得感を得られます。
最近話題のQRコード決済ですが、クレジットカードで良くないか?と思っていました。
ところが、遠藤さんは先日行った縁日の屋台で、子供を抱っこしながらお金を払わなければいけない状況に陥ったけれどペイペイが使えたから便利だったと仰いました。
確かに私も同じ体験がある、とハッとしました。
小さな子供を抱っこしていたりして手がふさがっていると、バッグの中から財布を出してカードを出してというのはなかなか手間です。
スマホは子供の写真を撮ったりすることもあり、ズボンのポケットやバッグの手前ポケットなど取り出しやすい場所にしまっていたりします。
クレジットカードよりも楽に支払えるんですね。
リュックに財布をしまっていて、かつ小さな子供がいて抱っこ等で手がふさがりがちな家族連れが主な顧客層のお店にとっては、「皆クレジットカードで良いと思っているだろうから導入しなくていいか」ではなく、QRコード決済が役に立つかもしれませんね。
頒布会
会費を支払っている会員に向けて、商品や刊行物などを定期的に配る会。
サブスクリプション
アドビのillustratorやPhotoshopなどのように購入買いきりではなく、月額いくらという感じで一定期間の利用に対して代金を支払う方法です。
ファッションなどいろいろなもので増えてきていますが、何とトヨタもやっているそう。
おまけ付
缶ビール6缶パック購入でグラスプレゼント、というやつです。
全く関係ないものではなく、商品・サービスと親和性のあるものにすることがポイントだそう。
リスクリバーサル
「ご満足いただけなければ全額返金保証!」というやつです。
これは本当に自信のある商品だけにしておかないと、本当に返品が来て返金が多くなってしまうかもしれません。
コーズマーケティング
特定の商品・サービスの購入が寄付などを通じて環境保護等の社会貢献に結び付くことを訴求すること。
- カルディコーヒーファーム「バードフレンドリー®コーヒーキャンペーン」
一杯のコーヒーが渡り鳥や野鳥の生息地を守り、遠い中南米の国々で取り組まれている環境保護活動につながる「バードフレンドリー(R)コーヒー」に親しんでいただくために、愛鳥週間(バードウィーク)にあわせて、5月7日(火)よりキャンペーンを開催いたします。期間限定のスペシャルセットをご用意、対象アイテムを特別価格にて販売し、このプログラムが広がることを目指します。
https://www.kaldi.co.jp/kaldinews/fromkaldi/news/20190423birdfriendly.php - キリンビバレッジ「1ℓ for 10ℓ(ワンリッター フォー テンリッター)」※2016年に終了
ボルヴィック出荷量1ℓにつき10ℓの清潔で安全な水が支援対象国であるマリ共和国の人々に供給される仕組み
DM(ダイレクトメール)
3回来店すると(購入すると)リピート率が6倍になるそう。
理想のお客様の生活を予想し、今の時期はこんなのが必要だろうな、タイミングを考えて、その時々に合った内容の物を考えて送り、何とか3回来店(購入)してもらうのが大切。
サンキューレター
来店したお客様にお礼のメッセージや感謝の言葉をハガキやメール等で伝え、コミュニケーションを深める手法。
私がお世話になっている美容室も、いつも来店後に手書きのメッセージ入りはがきを送ってくれます。
アンバサダーマーケティング
焼酎の「いいちこ」やパナソニックなどでも実施しているこの手法、インフルエンサーマーケティングとは少し違うそうです。
こちらの記事が分かりやすかったです。
季節限定品
今の時期、スーパーには栗などを使った「秋限定」のお菓子があったり、キリンビールの「キリン秋味」のように秋しか出さないビールがあったりと、季節限定品がたくさん並んでいます。
私も「限定」という言葉には弱いです。
限定品、と聞いて、以前花畑牧場の経営者・田中義剛さんがテレビ番組の中で行っていた限定メニューの作り方を思い出しました。
それは、
- 今だけ
- ここだけ
- あなただけ
というもの。
↑この回です。
季節限定はまさに「今だけ」。
観光地などで売られている地方限定の味のお菓子などは「ここだけ」。
メールマガジン登録者限定、LINEでお店と友達になってくれた人限定のクーポンなどは「あなただけ」。
今回のセミナーの内容ではありませんが、やはり限定品は魅力的ですね。
大事なのは実践すること
セミナーの冒頭、遠藤さんが仰いました。
「私たち(グローカルマーケティング)は、“実践すれば売上は上がる”とお伝えしています」
だからぜひ実践し、続けて欲しいと。
今回紹介された施策のうち、いくつかは知っているものでした
しかし、知っているうち「実践しているものはいくつあるか?」と聞かれると・・・。
知っているだけでは意味がなくて、実践しなければいけない。
同じことを学生時代にも聞いたことがあります。
「分かる≠できる、だよ」
大学を卒業するとき、先輩が社会人になる自分へのエールとして言ってくれました。
分かっているだけでは意味がなくて、それを実践してできるようにしてこそ価値がある。
今に通じる、ありがたいアドバイスでした。
今回のセミナーでは色々な方法を知っただけでなく、喝を入れていただくこともできました。